コントラバスで低い音を「ブン!」と一発鳴らす時のコツ

こんにちは、
コントラバス奏者の甲斐澤 俊昭です。

最近、生徒さんの一人から、

「オーケストラの中で、ここぞという場所で
 低い音を「ブン!」と一発鳴らす時のコツ」

について質問を受けました。

コントラバス奏者にとって最も重要な仕事
についての素晴らしい質問ですね!

今回はこちらについて、お話ししたいと思います。

私は、生演奏でも録音でも、
そのオケのレヴェルを判断するのに低音、
特にコントラバスがどのくらい聞こえるか、
存在感があるかで判断しています。

一般的には、
ただ聞こえれば良いというだけではなく、
質が伴わなければならないのですが、

低音の場合は逆に、
上質な音でなくては聞こえてこない、届いてこない
という性質を持っているからです。

こうした観点からも、上記の「ブン!」
最も大事にしていきたいものの1つだと思います。

さて、この課題は突き詰めていくと、

① 身体の使い方

② 意識の焦点の当て方
 (どういう意識で聴いてタイミングを取るか)

の2つの観点に分類できると思います。

以下でそれぞれについて、
詳しく解説していきたいと思います。

① 「ブン!」と弾く時の身体の使い方

私も、オーケストラの仲間たちから、
「コントラバスが聞こえない」とか
「弱い」とか言われた時期もあって、
ずいぶん悩んだものでした。

この時期、私がまず真っ先に再確認したのが
身体の使い方でした。

私は幸いなことに、楽器を学び始めた最初から、
恩師である中先生に、右手の使い方で
一番大切な事を徹底的に叩き込まれていました。

それは何かというと、

「右手が一体になっていなければならない」

という事です。

より具体的には、

「右手の肘は絶対に曲げてはいけない」

という事になります。

この真意は、右手を肩から硬直させてまで
真っ直ぐであることを保つのが目的ではなくて、

右手が一本のパワーを伝達する、
いわば車でいうシャフトの様な役割を持つことを
体感することにあります。

シャフトですから、
それ自体がパワーを発することはありません。

すなわち、肩から指先までの筋力は極力使わない、
ということになります。

では、弓に伝える圧力を作るパワーは
どこが発生源になるか。

それは、いわゆる「ハラ」とか「丹田」とか
呼ばれる部分です。

ハラや丹田の意識については
とても奥深い分野ですが、ここでは、

「腹筋を含めた下腹部のあたりを意識する」

と理解しておいてください。

これは決して難しいことではなく、
例えば重いものを持ち上げようとする場合や、
一気に息を吐き出す時などに
無意識に行っている身体の使い方だと思います。

この状態をコントラバスを弾く時にも再現
するために、外せない条件があります。

それは、

「身体の重心を絶えず下に感じていること」

です。

これは、自分の重心を感じることにより
ハラから上の上半身をリラックスさせ、
柔軟なままパワーを伝えるために大切です。

立奏時には、足の裏に自分の重みを意識するだけで
簡単に重心を感じられます。

バス椅子に座っている時は
お尻と足に重みは分散しますが、
適切な位置に足を置くことができれば大丈夫です。

さあ、これで身体の準備はできたとします。

質問は、

「ここぞという場所で低い音を「ブン!」と一発」

ですね。

失敗例として言葉でいうと、
「ブン」というべきところで
「ブウー」とか、「スカッ」とかに
なってしまうのが、よく聞かれるところです。

これは何が原因かというと、
弓のあたる位置・使う量・圧力・スピードが
適切でないからです。

中でもよく見かけるられるのは、

弓のスピードが早すぎて、
弓の毛と弦が噛み合っておらず
空回りしているような状態

です。

適切なハラから発生したパワーを弓に伝えれば、
弦の振動は素直に始まります。

そのためには、
毛と弦の噛み合った感触を明敏に感じとる
必要がありますが、弓のスピードがあまりに
早すぎると、これを感じることができません。

弓のあたる位置(駒の近くか指板の近くか)
については、楽器の状態等にもよりますので
ここでは触れないことにしますが、

弦の感じ方が鋭敏になれば自ずと決まってくる
性質のものです。

さて、実際に発音する瞬間です。

音の立ち上がり、
つまり弓の毛が弦に噛み合った最初の瞬間に、
今出そうとしている音の強さも長さも含めた
全てのニュアンスが決まります。

パワーは後から付け加えることは出来ません。

発音した後は、弦が自ずから振動するのに任せ、
じゃまをしないこと。

弓で余韻を弾いているだけとも言えます。

これは、打楽器と同じ事ではないかと思います。

例えばティンパニを叩くとして、バチを振り上げ、
下げたインパクトの瞬間に全てが決まります。

後は余韻の処理のみです。

弓で弾く事を前提にお話ししてていますが、
上手くいっている発音の状態は
ピッチカートの発音に近いと思います。

言わば、弓の毛を使って
ピッチカートをしている感じです。

この感覚を持って、弾いてみてください。

長くなりましたが、「身体の使い方」で
気をつけるべきポイントは以上になります。

② 「ブン!」と弾く時の意識の焦点

次に、オーケストラでのタイミングの取り方で、
私が意識している事をお話しします。

よく、

首席奏者に「合わせる」、

コンサートマスターを見て「合わせる」、

といった言い方がされることがありますが、
私はこの表現には少し疑問を持っています。

もちろん、そのような
「合わせる」意識を持って演奏すると、
極端にアンサンブルが崩れることはなく、
とりあえずの整然とした演奏は可能です。

ただ、「強制の感じられる自発性のない整然さ」
からは、感動は生まれません。

合わせるのではなく、

「同じ方向性を持つ」

という意識が最も大切と思います。

「内なる同意があった上でのシンクロナイズ」

とでも言えましょうか。

そのためには、まず

一緒に弾く仲間達との信頼関係

が必要になってきますし、

今弾いている曲に対しての理解について、
作曲者や指揮者に迫るような意識

も必要となってきます。

そのような中で、個人個人が全体を聞きながら、
完全に自発的に弾く。

その結果、多少ズレが生じてしまったとしても、
(場面にもよりますが)それがむしろ厚みとなり
スケールの大きな音楽につながると思います。

まとめ

以上、① 身体の使い方と ② 意識の焦点の当て方
について、お話ししてきました。

長くなったのでまとめたいと思います。

① 身体の使い方

・右手は一体に、そのために右手の肘は曲げない

・右手はパワーを伝達するシャフトであり、
 右手自身はパワーを発しない

・パワーの発生源は「ハラ」「丹田」、
 これを意識するために身体の重心を下に感じる

・「ブン!」と弾く時の失敗例の多くは
 弓のスピードが速すぎることによるもの

・ハラから発生したパワーを適切に伝えるために
 弓の毛と弦の噛み合った感触を鋭敏に感じとる

・音の立ち上がり時に、音の要素の全てが決まる

・音が立ち上がった後はパワーを加えることなく、
 余韻だけを弾く意識を持つ

② 意識の焦点の当て方

・「合わせる」意識ではなく、
 「同じ方向性を持つ」という意識で、
 最終的には「自発的に」弾く

・そのために、一緒に弾く仲間との信頼関係構築、
 弾いている曲の理解(作曲者や指揮者の意図を
 含む)が必要

今すぐできる最初のステップ

以上、色々細かくお話ししましたが、まずは
右手がバラバラにならない感覚をつかむために、

「絶えず右肘の状態を観察すること」

から始めるのがオススメです。

そのためには、最初は肘を曲げずに

「右腕を真っ直ぐに伸ばす状態であること」

を意識するのが分かりやすいです。

私の場合、音大生時代に恩師からは、

「肘が曲がったら、レッスンはその時点で中止」

を言い渡されていました。

私はこれへの対策として、普段の練習時に
腕に縦じまの入る衣類を着て、
常に鏡の前で肘がまっすぐかどうかチェックする
などの苦心した記憶があります。


話し始めると、「ブン!」一発のために
色々な思いが出てきました。

その瞬間瞬間の自分の身体の状態を観察することや
その曲の作曲家や指揮者の思いを探ることは、
とてつもなく有意義なことです。

その他にもお伝えしたい事はまだまだありますが、
一番大事だと思っている事をお話ししましたので、
今回はこの辺にしときます。

ぜひ、これをお読みのあなたも、
納得いく「ブン!」を目指してください。


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