こちらのページでは、
2020年10月25日(日)に横浜で開催された
かいざわBassFamily コントラバス演奏会
の様子をご紹介しています。
【演奏曲目】
- ピアソラ「キーチョ」(演奏:竹内 由起子)
- ミシェク コントラバスソナタ第2番 第1楽章
- デサンクロ「アリア」(演奏:小作 英太さん)
- ボッテジーニ「エレジー」(演奏:中田 依子さん)
- バッハ 2つのヴァイオリンのための協奏曲 第1楽章(演奏:加地 あみこさん・加地 俊幸さん)
- カプッツィ コントラバス協奏曲(演奏:井野 紘太郎さん)
- 溝口肇「世界の車窓から」(演奏:益本 和代さん)
- タイスの瞑想曲(演奏:中里 泰彦さん)
- コル・ニドライ(演奏:T.Kさん)
- オペラ「真珠採り」より「神殿の奥深く」(演奏:中里 泰彦さん・竹内 由起子さん)
- シューマン 幻想小曲集(演奏:加地 俊幸さん)
- ヴィヴァルディ チェロソナタ第6番(演奏:甲斐澤 俊昭)
- ラバト「ブレイズ」(演奏:甲斐澤 俊昭)
- ガーシュイン「ポギーとベス」より アリア「ベス、おまえは俺の女だ」(演奏:甲斐澤 俊昭)
- ボッテジーニ「パッショーネ・アモローザ」(演奏:甲斐澤 俊昭・戸嶋 優さん)
以下、動画の公開を許可いただいた方のみ
掲載しています。
次回の演奏会の出演者も広く募集中です。
詳細はこちらをご覧ください。
ピアソラ「キーチョ」(演奏:竹内さん)
竹内さんコメント(当日ナレーション)
タンゴで有名なピアソラは甲斐澤門下でも
大変人気があり、毎年誰かがピアソラの曲を
弾いている気がします。
私も3年前にここでこの曲を弾いていますが、
その時の「いつか又弾くかも・・・」という
予言の通り、再び演奏することになりました。
3年前と同じでは進歩がありませんので、
一度目の時諦めたアレンジを加えています。
甲斐澤コメント
気迫が伝わってくる演奏です。
全体に弓を使う分量が適切なので、
弓の毛と弦がよく噛み合い、
音のラインに響きが伴っています。
中間部のカンタービレもゆっくりの弓使いで、
右手で歌を作り出しています。
これにヴィブラートの波の幅が増えると、
更に悩ましい表現が現れると思います。
そして、全ての小柄な人の課題になりますが、
ハイポジションでの弓の角度
(弦と弓が直角に交わるという条件)の問題。
将来的に、彼女が一回り小さい
コントラバスの名器を手にすることも
解決策の一つとして夢見ます。
デサンクロ「アリア」(演奏:小作さん)
小作さんコメント(当日ナレーション)
今回は、英語的アプローチを実験したいと
思います。
先生のレッスンから受け取ったキーワードを
5つに絞りました。
小節、滑らかなフレーズ、余韻、
三連符、ソルフェージュ
小節を意識する:
英文は大文字で一文が始まり、
主語がハッキリしてる。
同様に一拍目を意識し拍子を感じること。
滑らかなフレーズ:
英会話、演説は数単語一息で話し、
ブレスして次に繋げる。
この曲でも同様にフレーズを意識する。
余韻:
言い換えると聞き手には音が継続していると
感じさせるもの。
会話の中で、なにを発音しているか
容易に想像出来る単語によっては
語尾をほとんど発音しないものもある。
また、日本語と違い子音で結末する単語がある。
演奏では4分音符以上の長い音符で
この運用をします。
三連符:
会話の中で伝えたい単語ははっきり長めに
発音してる。
この曲では三連符が作曲家が伝えたい音の一つと
想定し、たっぷり弾く。
ソルフェージュ:
歌えれば弾けると信じて会話のように弾く。
デサンクロならフランス語ではないか?
というところではありますが、そこは
欧米言語というくくりで大目に見て下さい。
甲斐澤コメント
この曲はコントラバスのための音楽の中でも、
オーケストラチューニング用に書かれている
こともあり、大変貴重な曲だと思います。
音域も広く音程をとるのが難しいですが、
小作さんは果敢に挑戦されました。
そして、特にD線以下が
非常に素晴らしい響きをしています。
ハイポジションでの音程の不安定さがありますが、
例えばツェルニーのハイポジションエチュード、
またはダンカンマグティアの
ディリーエクササイズ等を使い、
音程の精度を上げるとよいと思います。
あと、全体に8分音符がテヌートで
レガートの繋がりが増すと、
この音楽の曲想が更に浮かび上がる筈です。
ボッテジーニ「エレジー」(演奏:中田さん)
中田さんコメント
高音域の曲を弾いてみたくて、
先生に選んでいただいた曲です。
大好きなボッテジーニの曲を勧めていただいた
ので、深く考えずに即決してしまいましたが、
いざ練習を始めてみたら、弾けるようになる
気がしなくて、この曲を選んだことに
後悔しながらの練習スタートでした。
コロナ禍で時間を持て余していたこともあり、
じっくりと練習に取り組めたことで、
なんとか形にはなってきましたが、
それでも、本番でちゃんと弾けるか、
最後までとても不安でした。
レッスンでは、基本的なことだけでなく、
歌う、ということに関してもたくさん教えて
いただきました。
ただ本番では、弾くことに精一杯になり過ぎて、
歌う、というところまで余裕がなかったこと等、
反省点は多いですが、
今までは憧れだけだったボッテジーニを、
素敵なピアノ伴奏で無事に最後まで弾くことが
出来て、とても幸せな時間でした。
エレジーは、この1年間、散々弾いたはずなのに、
発表会が終わってからも飽きずに弾いています。
甲斐澤コメント
ボッテシーニならではの広い音域にわたる
歌に満ちた曲です。
中田さんはこの曲に挑むために、マクティアの
デイリーエクササイズも並行して練習されて、
ハイポジションのピッチの精度を上げています。
今回の初挑戦で、曲の骨格は捉えることは
できたのではないでしょうか。
今後は、さらに深いヴィブラート、
テンポの伸び縮み、強弱のニュアンス等
が加わると、この曲の持つロマン的な要素が
より表現できると思います。
2つのヴァイオリンのための協奏曲 第1楽章(演奏:加地夫妻)
加地さんコメント
元は曲名の通りヴァイオリン2本のため曲ですが、
2ndヴァイオリンを1オクターブ下げた音域で
コントラバスが担当するようにしてみました。
300年近く前に作曲された、
バロック時代のヴァイオリン音楽の一大作品で、
ヴァイオリンの初等教育で必ず取り上げられる等、
とても有名な曲となっています。
1stと2ndでかわるがわる、
共通して出てくる複数のモチーフが絡み合って、
まるで音の織物を編み上げるような厳かな曲です。
強固な形式の中でいかに音楽的に表現するか、
先生にアドバイスをいただきつつ、
本番の日まで色々と模索しながら取り組みました。
甲斐澤コメント
加地さん夫妻の絶妙な選曲です。
この曲のソロパートを
コントラバスで如何に演奏するかは、
大変興味深かったのですが、
独自なチューニングと鮮やかな運指で
見事にこなしています。
また、
ご夫婦ならではの堅固なアンサンブルに加え、
原田先生の手厚いサポートで、
新鮮なバッハを聴く思いです。
これに、
強弱のメリハリやテンポの柔軟性が更に加わると、
一段と深遠なバッハの世界が展開すると思います。
カプッツィ コントラバス協奏曲(演奏:井野さん)
井野さんコメント(当日ナレーション)
今回、2年ぶりの参加となります。
演奏する曲目はカプッツィの協奏曲です。
一楽章はコントラバス業界では
最も有名な曲かも知れませんが、
二・三楽章はどうやら
音大などでもほとんど演奏されないようです。
レッスンに持っていったところ、甲斐澤先生も
「僕は弾いたことないかも…」とのことでした。
「学生の頃途中までさらったので、
最後までやろう」という簡単な気持ちで
全楽章弾くことにしましたが、
どうやらとんだ秘曲だったようです。
甲斐澤コメント
この曲はコントラバスのオリジナル曲の中でも、
G線以下の低音弦を多用した音楽です。
その上、井野さんの低音部分が
よく鳴っている極太な響きによって、
コントラバス本来の響きを
たっぷり味わうことのできる演奏です。
特に演奏機会の珍しい第3楽章は
ユーモラスな曲調が音質にマッチして
聞き応えがあります。
これにカンタービレな部分の
G線の音に艶が加わると
ますます魅力的な音楽になると思います。
石田先生のピアノは、
ここでもコロラトゥーラを思わせる音色で、
演奏に大輪の花を添えています。
溝口肇「世界の車窓から」(演奏:益本さん)
益本さんコメント(当日ナレーション)
昨年現役を退き、オーケストラでは
ヴィオラ奏者として活動しています。
コントラバスは今回限定で復帰しました。
本日演奏するのは、
溝口肇作曲の「世界の車窓から」。
同名のテレビ番組テーマソングとして
お馴染みの方もいらっしゃると思います。
ご存知の通りチェロの曲ですが、
コントラバスでどう料理するか、
考える過程が楽しかったです。
約1年ぶりの演奏のため、
コントラバスを弾くための筋肉や脳みそは
すっかり衰えましたが、
気張らず楽〜に弾きたいです。
甲斐澤コメント
気張らずに楽に弾く、ということが
いかに大切かを教えられるような演奏です。
益本さんの演奏には毎回感じていましたが、
今回も彼女の周りには
不思議な程リラックスした空気感が漂います。
聴き終わると思わず口元がほころびます。
もちろん選曲にも関係していますが、
それだけではなく、
気持ちの在り方を隠しようのない
音楽の伝わり方の不思議さを垣間見る思いです。
次回の復帰も待ち望みます。
タイスの瞑想曲(演奏:中里さん)
中里さんコメント(当日ナレーション)
『タイス』はフランスのジュール・マスネが
作曲した「抒情劇」と題されたオペラの一つ。
『タイスの瞑想曲』は
ヴァイオリンと管弦楽のための間奏曲であり、
第2幕の場の間に演奏される。
4世紀の北アフリカ・ナイル河畔の町を舞台に、
娼婦の「タイス」と修道士「アタナエル」が
繰り広げる破天荒な恋物語です。
この <瞑想曲> は、
タイスがアタナエルの説得により
娼婦稼業をやめ、改心して信仰の道に入ることを
受け入れる重要な局面で流れる間奏曲なのです。
この間奏曲は、
これまで生きてきた「俗」世界から
「信仰」の世界へと大きく転換する決定的瞬間
を迎えたタイスの心情を表しています。
およそ5分間の間奏曲で、タイスが娼婦をやめて
信仰の道に入ることに悩み、
受け入れるまでの心の動きが描写されています。
タイスの心の葛藤がもっとも表れているのが、
中間部です。
ここではハーモニーが次々と変化し、
タイスの揺れる心情を表しています。
そして最初のメロディーが再び表れる後半では、
音量がppになっていることが印象的で、信仰の
道に入ることを受け入れ、心も浄化したタイスの
覚悟を、表現しているといえるでしょう。
甲斐澤コメント
この曲の本質を捉えた堂々たる演奏だと思います。
譜面台を置かれながらも、
完全に暗譜されていることでも、
中里さんがこの音楽をご自分のものにされている
ことを窺うことができます。
そして、曲想の変わり目のテンポの処理が
絶妙だと思いました。
次回の素晴らしい演奏も期待しています。
コル・ニドライ(演奏:T.Kさん)
T.Kさんコメント
昨年の発表会のあとに、先生から、
この曲を演奏してみたら、とのお話をいただき
取り組むことにしました。
自分なりにじっくりと練習する中で、
弾きこむごとに、曲の持つ力に圧倒されるような
勇気づけられるような気がしました。
場面ごとの意味や表現などの解釈を先生から
教えていただき、コントラバスの深々とした音と
歌うような流れをもって演奏したいと思いました。
しかし、道のりは遠く、発表会が終わった今でも
もっと弾きこみたいと改めて感じています。
この特殊な状況下でも、
素晴らしいピアノの先生方と演奏する場を整えて
くださった甲斐澤先生に心より感謝しています。
甲斐澤コメント
時間をかけてじっくり曲と取り組んだ、
T.Kさんらしい息の深さが感じられる部分もある
演奏です。
ご自身のコメントに書かれた通り、
さらに音を深めたいという気持ちは、
この演奏会の直後に、高価な素晴らしい弓を
お買い求めたということでも、
T.Kさんの本気度を窺い知ることができます。
そして、毎度のことながら、この演奏でも
ピアノの原田先生の名サポートぶりも
一聴に値すると思います。
オペラ「真珠採り」より「神殿の奥深く」(演奏:中里さん・竹内さん)
中里さん・竹内さんコメント(当日ナレーション)
カルメンで有名なビゼーが25歳の時に作曲した
オペラ「真珠採り」は
あまり上演される機会がありませんが、
このテノールとバリトンの美しい二重唱は、
コンサートではよく取り上げられています。
ところはセイロン、二人はかつて同じ女性を
争った親友同士ですが、その女性が去った今、
彼女の美しさを思い出しつつ、
変わらぬ友情を誓って、
熱く歌い上げるのがこの曲です。
その後再びその女性が現れ、
オペラは悲しい結末へと向かってゆきます。
シューマン 幻想小曲集(演奏:加地さん)
加地さんコメント
元はクラリネットのために作曲された曲で、
3つの小曲から構成されています。
1曲目はまどろみの中にいるような雰囲気ですが、
2曲目では少し軽やかで明るくなり、
3曲目は勢いのある華やかな曲になっており、
各曲はそれほど間を置かずに演奏される事に
なっています。
昨年に引き続き、高音域を扱う事が可能な調弦
(下からG-D-A-E、ヴァイオリンの2オクターブ下)
を用いて取り組みました。
シューマンの世界観を表現すべく、
自分なりに沢山の時間をかけて研究しましたが、
甲斐澤先生のレッスンと、ピアノの原田先生との
リハーサルでよりレベルアップさせていただいた
実感があり、心から感謝しています。
同じシューマンの”アダージョとアレグロ”と
ともに、この曲もまたいつか弾いてみたいです。
甲斐澤コメント
この曲でも、バッハ同様見事な運指で
全く危なげのない演奏に終始しています。
これにもし付け加えるとしたら、
音色というか音質です。
この録画では正確には音質を探ることは
できないかも知れません。
が、ピアノの音と比較してみると、
音の成分の倍音の基音となる分の量が
コントラバスの方が少なめなのが
分かると思います。
これが増すと、更にピッチの安定感が上がり、
客席に伝わる共感や感動も大きくなると思います。
説明が難しくて分かりにくいかも知れません。
簡単に言うと、
音の厚みや立体感のような要素です。
ヴィヴァルディ チェロソナタ第6番(演奏:甲斐澤)
甲斐澤コメント
コントラバス用に出版されている楽譜を
1オクターブ上げて演奏しました。
オーケストラチューニングのまま弾いたので、
チェロでの演奏と全く同じ音域となります。
第1楽章の、天から降り注ぐような
音楽が表現できれば、と思い取り組みましたが、
楽器の状態等の不調などが重なり
不本意な結果となりました。
ラバト「ブレイズ」(演奏:甲斐澤)
甲斐澤コメント
この無伴奏曲についての楽譜以外のデータが
ないのですが、この音楽はバグパイプを
模倣していると捉えています。
バグパイプという楽器は、
昔イングランド方面での戦争時に軍団の最前線で
使われて、仲間への鼓舞や敵への威嚇の役割を
果たしたそうです。
今回は、コロナに負けない心意気を乗せよう
という気持ちで演奏しました。
ガーシュイン「ポギーとベス」より アリア「ベス、おまえは俺の女だ」(演奏:甲斐澤)
甲斐澤コメント
大好きなガーシュインの音楽です。
30年ほど昔になりますが、
アメリカの黒人のみの歌劇団が来日し、
このオペラを共演する機会がありました。
そのなんとも、
ソウルフルな音楽に圧倒されました。
中でも、サマータイムと並んで印象的だった
アリアです。
ボッテジーニ「パッショーネ・アモローザ」(演奏:甲斐澤・戸嶋さん)
甲斐澤コメント
久々にご出演の戸嶋さんとの演奏。
成長著しい戸嶋さんは、歌い方の魅力や、
特に音そのものが素晴らしく、
完全に彼女に対して劣勢となってしまいました。
かつて、教える側だった立場という、
立場の優位という思い上がりで、
余裕で取り組もうというスタンスを
見事に打ち砕かれた演奏でした。
でも、この演奏会の後には、
楽器の調整や弓の選択を見直して、
再出発のよい機会となりました。
次回の独奏演奏会の出演者も広く募集中です。
詳しくは以下のページをご覧ください。